2021年 1月11日
前回は牛大国とでもいうべき、インドの牛を紹介しました。
インドでは牛は神様の乗り物として、
信仰の対象になっています。
したがって牛はどこにでもいます。
田舎のみならず、街中にも堂々といます。
この牛はインド南部のクンバコーナムと言う街で見かけました。
寺院からのびる商店街に、
まるで買い物客の一人であるかのように
自然体で存在しています。
道路に牛がいても人々は気にせずに、よけて通ります。
牛の方も人間のことなど気にしないかの如く、
好き勝手にその辺を歩いています。
インドでは都会であっても、
牛と人間は同じ生活空間を共有しています。
それは家畜と言うよりも隣人、友人と言った方がいいくらいです。
それではインド以外のアジア各国の牛はどうなのでしょうか?
これはインドの東隣の島国、スリランカで見かけた牛です。
早朝に南部のリゾート地ウェリガマのビーチを
散歩しているときに、
牛たちも同じように散歩しているところを見かけました。
スリランカは仏教国なので、牛は特に神聖な生き物ではありませんが、
それでもけっこう自由にやっているのかもしれません。
続いて同じくインドの陸続きの東隣、ミャンマーの牛たちです。
いかにも仏教国ミャンマーならではの一枚。
モンユワ近郊、ボーディタタウンの森の中には、
千体もの仏像が並んでいる場所があります。
その中をまるで参拝するかのごとく、白いコブウシが
うろうろしていました。
この二頭の牛たちは、仏教遺跡で有名なバガンを散策中に見かけました。
木でできた荷車をひいています。
その荷車には荷物と、おばちゃんが乗っています。
いわゆる牛車というものです。
二頭とも背中に立派なコブがあるコブウシ、しかも白いコブウシです。
インドであればこれはシヴァ神の聖なる乗り物です。
ミャンマーでは普通のおばちゃんが乗っていますが。
道路わきのちょっとした池に水を飲みにやってきた牛です。
後方に仏塔の遺跡が見えますね。
これも白いコブウシですが、
後ろに乗っているのは、女性が二人のようですね。
この牛車も顔に白いタナカを塗った女の子が乗っています。
バガンで見かける牛は牛車ばかりですね。
しかもなぜか女の人ばかり乗っています。
そう思っていたら、
遺跡と遺跡に挟まれた、赤土の道を大挙して押し寄せる、
白いコブウシの群れを発見です。
放牧に向かうところでしょうか。後ろに荷車はついていません。
白いコブウシだからと言って、いつでも牛車をひいている
わけではなさそうです。
路上に停められたレンタサイクルに危険が迫っています。
まるで桂林のような、石灰岩の山々を背景に、
牛の親子が歩いています。
ここはラオス中部のバンビエンです。
かつてベトナム戦争時にアメリカ軍の飛行場があった、
小さな村です。
今では石灰岩の奇岩が作り出す景観と、
あふれる大自然を目当てにバックパッカーが集まっています。
この牛はコブウシのようですが、色が黄土色です。
コブウシの交雑種である黄牛と思われます。
ラオス南部の街パクセーの市場前から、
トラックの荷台を改装した大型ソンテウに
乗り込みます。
向かうは世界遺産ワットプー遺跡のある村、
チャンパサックです。
その途中の道端には、黄牛がのんびりと草を食べていました。
ラオスから南に下ります。
カンボジアの北部シェムリアップにある、
世界遺産アンコールワット。
アンコールワット寺院の周囲にはぐるっと
堀がめぐらされていますが、
その堀の岸辺では牛が放し飼いになっています。
白くはありませんが、黄色でもないので、
交雑種の一種ですね。
アンコールワット近くの森にいた、白いコブウシです。
よく見ると森の奥に茶色いレンガ造りの遺跡が見えます。
アンコールワット周辺の森の中には、
名もないような小さな遺跡が点在しています。
レンタサイクルで回るのがおすすめです。
同じくカンボジアですが、
南部のカンポット郊外の村で見かけたコブウシです。
村の入口で女性が何かを燃やしているようです。
その脇で、二頭のコブウシが木箱のようなものに
顔を突っ込んで、餌を食べています。
この木箱はごみ箱なのか、餌箱なのかよくわかりません。
餌箱であるとすると、このあたりのコブウシは
放牧されていないのかもしれません。
暑い夏の昼下がり、楽しそうに水浴びをしているのは、
ベトナム中部の街、ニンビン郊外の川で見かけた水牛です。
水牛は群れを作って生活し、水浴びが大好きです。
水に慣れているので、田んぼでの作業に活躍します。
水牛は労働力としてだけでなく、搾乳用でもあります。
水牛の乳はインドのギーというバターオイルの原料でもあり、
イタリアのモッツァレッラチーズの原料でもあります。
水牛は観光用として沖縄にもいますよね。
もちろんベトナムにも水牛以外の牛もいます。
王宮があることで有名な、ベトナム中部の古都フエ。
そのフエの郊外でフォン川を眺めながら
たそがれているのは黄牛です。
古都フエもまた観光地ですので、
レンタサイクルの店がたくさんあります。
自転車があると郊外の村を巡ることができ、
郊外の村に行くと、牛と遭遇するチャンスが増えます。
反面、街の中で牛に出合うことはめったにありません。
最後は少し寒いところの牛です。
四川省の成都からバスで4時間。
標高4000mの峠を越えて行った先に、
美人谷で有名な丹巴という街があります。
丹巴にはギャロン・チベット族という、
カラフルな色を織り交ぜた、
美しい民族衣装を着た人たちが住んでいます。
その丹巴から山道を1時間くらいかけて登って行った村で、
この牛を見かけました。
白と黒の模様の牛ですが、平地で見かける牛と違って、
あきらかに毛が長いです。
標高が高く、気温が低い土地に適応したのか、
ヤクなどの毛の長い種類の牛と交雑したのかはわかりません。
このような牛も、丹巴の街中で見かけることはありません。
丹巴に限らず、スリランカでもミャンマーでも、
ラオスでもカンボジアでもベトナムでも、
街中で牛を見ることはほとんどありません。
たいがいの牛は郊外の村や、そもそもの田舎にいます。
それはアジアでは、
牛は基本的には農耕用、荷役用、搾乳用といった
家畜だからでしょう。
これらの家畜は農村では役に立ちますが、
街中ではあまり役に立ちません。
ひょっとするとかつては荷役用の牛が
街中で荷物を運んでいたのかもしれませんが、
近年は車にとってかわられたのでしょう。
その点インドは例外です。
聖なる牛として大事にされているためでしょうか、
農耕用でもなく、荷役用でもなさそうな牛が、
街中をうろうろしています。
それらの中には搾乳用に飼われているものもいるそうですが、
それにしても牛は放牧ならぬ、放街されています。
放街された牛たちはその辺に投げ捨てられている
生ゴミをあさっています。
街を清掃する役に立っている、と言えなくもないですが、
その後ところかまわず糞をしていきますので、
どっこいどっこいといったところでしょうか。
特に雨が降った後は、ぐちゃぐちゃになった未舗装の道で踏むのが、
泥なのか糞なのかは運次第です。
うし年なので牛の大特集。
こうしてみるとアジア各地にはいろいろな牛がいました。
そして牛がいるところには、
かならず人の生活の匂いがしていました。
人間と牛の関わり合いはとても古く、
一説によると紀元前8000年のメソポタミア文明において、
すでに飼育されていたそうです。
その後も農耕用や荷役用などの労役用として、
搾乳用や食肉用として、
皮革や角の利用も含めて、
牛は人間と深い関わり合いを持ってきました。
近代化の中で、特に都市部では人と牛の生活領域は、
インドを除いて分けられてしまいました。
そんなインドでも徐々に都市部では牛を見かけなくなっています。
けれども見かけなくなったところで、
人間と牛との関わり合いがなくなったわけではありません。
チーズやヨーグルト、バターなどのおいしい乳製品や、
ステーキ、ハンバーガー、牛丼などを通じて、
いつでも僕らの身近に存在しているのです。
今年一年、牛のようにゆっくりと、でも確実に一歩一歩、
世の中が良い方向に進んでいきますように!